人生を変えたゲームたち

その2 Wizardry(PC88)

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 PC-6001mk2を遊び倒した少年は、やがてもっと上位機種が欲しくなる。中学の3年間で必死こいてお年玉を貯めて、8801シリーズを目指す。弟は全額はさすがに出さなくなったが、それでも全く触らせないぞと脅すと一部は出すことに同意してくれ、なんとか資金は足りた。

 購入した機種は8801FH。88全盛期を築いたSRの廉価版がFR、そして動作クロック数が2倍になった改良版がFH。この辺は別に特に思い入れがあったわけでもなく、買おうと思ったタイミングにたまたま発売された最新機種を選んでるだけ。

 中学3年間の終わりには、高校受験がある。当然ながら高校受験の前にそんなものを買うわけにはいかない。むしろ既存のPC6001mk2をいじることすら許されず、とにかく机に向かうことを強要される。が、元来へそまがりである私は、机に向かえと言われると、向かいながら勉強以外のことをやりたくてしょうがない。その中にはボードゲームのデザインも含まれるが、残念ながらこちらに関しては全く芽が出ないまま、テストプレイさせた弟からも酷評されるのでついにはやめた。

 さりとてマンガなんぞ全く買ってもらえない家庭。PCですら買うのに難色を示されるので、電子ゲームの類もほぼ皆無。ゲーム&ウォッチが1台だけあったが、あんなもん1日で飽きる。向かう先は読書ぐらいしかなくなる。都立高校一覧みたいな、本来辞書的な使い方しかしないはずの本まで読破してしまうほど、コンテンツに飢えていた。そんな暇なら勉強しろよ、と100人中100人が言うと思うけど。


 その頃、やっとゲームというものが市民権を得てきて、クラスメイトから何やらゲームの本を貰い受けることになる。別冊宝島の分厚いムックで、タイトルは忘れたが、ファンタジーRPGのまとめ本みたいなものだった。特定のタイトルではなく、この武器はこのゲームではこういう扱いになっている、的な。

 これが猛烈に面白かった。残念ながら最低機種であったPC6001mk2に出ているような作品はほとんど載ってなかったが、PC88を買えばここに載っているようなゲームはほぼ全部遊べるという幻想を育てるに十分であった。特に記述が多かったのがWizardry。さぞかし面白いゲームなんだろうな、と受験生の欲求を猛烈に刺激したものである。

 ついに我慢しきれなくなった私は、なんでも揃ってると評判の新宿は紀伊国屋書店に向かい、受験生にも関わらずゲーム本を購入してしまう。「Wizardryプレイングマニュアル」である。多分生涯で一番読み返した本であろう。来る日も来る日も、これを読み尽くして、まだ見ぬWizardryに猛烈な憧憬を抱く。

 抱くどころではない。我慢しきれない私はついに、6人分のキャラクターシートを紙に書き出す。
名前や職業を決めておくだけでなく、ボーナスポイントいくつが出たらここに振って、初期資金で購入する装備はChainMailとHelmにしておくとBreastPlateより10安く上がる、とかそんな細かいところまで記入していた。

 これだけ勉強しない不真面目な受験生だったが、不思議と高校受験はすんなりと成功したため、Wizardry浪人になることは避けられた。いや高校受験の浪人とかまずないので、Wizardry浮浪者だろうか。先に受験した本命が自己採点の結果問題なかったため、次に受けた滑り止めの受験の帰りに、また紀伊国屋に寄って、片割れである「Wizardryモンスターズマニュアル」を購入して、ますます充実した机ライフを送る。


 高校の合格発表を終えて、ようやくPC8801FHを購入する許可が下りる。もちろんWizardryとセットで。買ったその日から早速プレイ。ダンボール箱すら片付けずにプレイを始めたため、早速親に怒られたことは言うまでもない。

 そこから中学を卒業するまでの間、クラスメイトとWizardryの話をするのが実に楽しかった。それまでPC6001mk2というマイナーかつ最低機種しかなかったため、同じゲームの話ができなかったのである。やっと同じ土俵に上がり、同じゲームの話ができるこの喜び。まあクラスに1人しかいなかったけど。

 ついにはそいつ経由で他のクラスの今まで接点がなかったような奴ともWizardry話をするようになり、MuramasaみつかんねーとかGreaterDemon養殖したったとか、もう日夜Wizardryのことしか考えていなかった。

 やがてゲームは終盤に入り、地下10Fの最奥部にボスWerdna様が鎮座ましましてる。モンスターズマニュアルで攻略法は知っているものの、他のモンスターとグラフィックの神々しさがまるで違う。一目ぼれである。Evilの魔法使いを好む性癖はここからまるで変わっていない。

 Wizardryのいいところは、ボスを倒しても終わりではないところ。むしろ地下10Fを自由にトレジャーハンティングできるようになるという意味では、これが始まりと言ってもいい。さすがにPC88の膨大なほかのゲームに浮気しながらだが、ここから4年はみっちり遊ぶに耐える名作であった。


 ちなみに続編もいくつも出たが、初代に勝るものはひとつもない。5までは許せるが、6(BCF)以降とかクソ以下。あと現代のWizardryOnlineとか、全く共通点がないに等しい。名作の系譜が汚されたことに失望を禁じ得ない。


<人生の変化ポイント>
・ゲームの優先度が人生の最上位部分に
・ファンタジー好きの原点
・暗黒魔法使い好きの原点

(2015年06月20日)

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