人生を変えたゲームたち

その3 M.U.L.E.(PC88)


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 読みはミュール。かのBPSの作品。BPSという会社は、国産RPGの元祖であるブラックオニキスを出したり、ARCHON(アーコン)とこれを海外から移植してきたり、しまいにはロシアからテトリスを移植してきてる実に凄い会社なのだが、なぜか潰れた。テトリスを世に広めて潰れるんだから、経営の下手さ加減もよっぽどのものである。

 このMULEは、ボードゲームチックな作品で、4人対戦を前提とした惑星開拓ゲーム。食料、エネルギー、鉄鉱石、宝石の4種類の品目を生産して、12ターン後に全評価額の高い者が勝つ。これだけならほんとにただのボードゲームなのだが、それぞれのフェイズはコンピュータゲームならではアクション性があるのがミソ。

 例えば1ターンにひとつ配られる土地の配給は、左上から順にカーソルが動くので気に入ったところに止まったら早押し。ミュール(ロバ型労働ロボット)の配置は時間制限つきのアクション。生産品を売るのも全員同時進行で価格を指定するリアルタイムオークション。

 ソロで遊ぶ場合は残り3名はCOMに相手させることになるが、人間4人となると、ひとつのキーボードを4人で共有する。今では考えられない不便さだが、当時ホットシートと呼ばれたこの対戦形式は、その後10年ぐらいは残った。インターネットが普及してネット越しの対戦が現実味を帯びたのはDiablo(Win)辺りからではなかろうか。


 さてこのゲームが出たのは高校生の頃。1年生で必修クラブを選ぶことになった際、当然ながらパソコンクラブを選択する。当時はまだパソコンの普及率は低く、学校に1台あれば気が利いてる方。幸い我が校には理科室に1台だけ、PC8801MHが置いてあり、週に1回の必修クラブではこいつをパソコン有識者である私が占有する。

 最初の数回をおとなしく過ごし、顧問の先生の信用を得てもう君たち勝手にやりたまえ状態になった途端、ゲーマーは牙を剥く。手持ちのゲームの中でも、多人数で遊んで盛り上がりそうなこいつを選定して持参してきたのである。効果はてきめん。画面を見ただけで食いついてきた連中がいた。今もなお交流が続く悪友ども、コブラっち(仮名)とTall.H(仮名)との邂逅である。

 同級生ゆえに、この手のマルチプレイゲームは遠慮なしに言いたいことを言う。「ふざけんなてめえ」「馬鹿か貴様」とか言っても後腐れのない関係というのは実に貴重である。まあTall.H(仮名)はちょっと後腐れのある方で、負けると暴れたりするちょっと残念な子ではあったが。特に放課後理科室に忍び込んで遊んでるのに、いつも通り負けて大暴れして、しまいにはパソコンの電源プラグをひん曲げる騒ぎを起こした事件は、未だに彼をいじるときの鉄板ネタである。

 性格の悪い連中なので、土地の選択時に関係のないキーを連打して無用なプレッシャーをかける小技とか、先手番になったときに店のMULEを逃がして、材料の鉄鉱石を高騰させると同時に後続プレイヤーの手番を実質無効化する「MULE逃がし」戦法とか、ほんとにろくでもない作戦が色々と考えられた。


 少し遅れて知り合ったおます(仮名)、トウジ(仮名)もこのゲームの常連で、物持ちのいいおます(仮名)宅には未だにPC88本体とMULEのセットが置いてあり、5年ぐらい前に徹夜でこれを遊び倒す会を催した。全員肌で覚えてるので、今更ルール説明も何も要らないところが素晴らしい。

 一応今はネット上で対戦できるクローンが出たりしているが、見知らぬ人とネットで遊んだのではこのゲームの真の魅力は引き出せない。罵詈雑言を言い合える友人が3名と、狭いところをホットシートで遊ぶ環境が必要なのである。

 なお10年ぐらいしてから、ネット上の知り合いでこのゲームをPC98で再現しようという機運が高まり、仕様を洗い出す際に、発生するイベントを全部空で言えることにドン引きされた。Wizardryの呪文50種だって大体言えるし、人生を変えるゲームってそういうレベルじゃないの?


<人生の変化ポイント>
・悪友どもとの出会い
・マルチプレイ好きの決定打

(2015年06月22日)

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