人生を変えたゲームたち

その5 ファンタジーナイト(PC98)

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 高校当時はPC88でぶいぶい言わせていたのだが、上には上がいる。PC9801シリーズの性能にはどう逆立ちしたってかなわないわけで、98でしか出ない作品も色々あった。

 そのひとつがファンタジーナイト(PC98)。当時全盛期だったシステムソフトの大戦略シリーズの中の、大戦略2(PC98)のユニットをファンタジーものに置き換えただけの簡易的なスピンオフ。原価ほとんどかかってないんじゃないのと思わせるぐらいの手抜きで、世間の評判も決して高くはなかった。のちにマスターオブモンスターズ(PC88)という形で88に移植され、ファンタジーシミュレーションのいち時代を築くに至るのだが。

 秋葉原のロケット本店に陳列されているPC98でデモをしていたこの作品に、私は一瞬にして惚れ込んだ。無機質な兵器の対決にはいまひとつなじめなく、ついでに言うと現代兵器をテーマにした大戦略では、タンクハンター(カード)で学んだ戦車の知識も生かされなかったのもある。Wizardry(PC88)でなじんだファンタジー世界のユニットが対決するシミュレーションというのは当時存在しなかったため、一気に魅了された。

 朝から晩までロケット本店のデモPCの前に立ってタダで遊んだものだから、金にならずかつ忍耐力だけはある嫌なガキとしてさぞかし店には困った存在だったであろう。秋葉原は自宅からそうそう近い距離でもなく、片道1時間ぐらいはかかる場所だったので、休日朝早くから気合を入れて家を出たものである。

 それゆえ、数ヵ月後、デモPCのゲームが差し替えられていたのはショックだった。俺の1日をどうしてくれるんだ的な。逆恨みもいいところだが。ちなみにそのとき差し替えられていたのは、同じシステムソフトのロードオブウォーズ(PC98)だった。逆恨みはこの作品にもぶつけられ、なぜか私はプレイしたこともないこの作品を毛嫌いし、和解には続編が出る5-6年ほどを要した。


 さて、そのPC98は高性能の分、金額も相当なものだったので、PC98を持ってる奴なんてそうそういなかったのだが、中にはお父さんが趣味で買った的な幸運な奴もいた。家にあったとしても、お父さんのPCだとガキが好き勝手に触れる好環境はそうそうあるわけではないのだが、たまたまクラスメートのコブラっち(仮名)がそうだった。

 そうなったらとんとん拍子で、コブラっち(仮名)宅に4人の悪友が集まってホットシートでファンタジーナイトを遊ぶまでにそう時間はかからなかった。ターン制なので、ターンが回ってきた奴以外の3名は暇だったため、別のゲームと並行して遊んでたような気がする。

 ファンタジーナイトは、選択できる陣営がLawとChaosの2種類しかない。ナイト率いる正義の味方Lawと、バルログなる悪魔が率いる悪の陣営Chaos。当時まだ正義に燃える高校生だった私には、Chaosを選択すること自体がありえないと思い、4人ともLawじゃつまらんなーとか勝手に危惧していたところ、なんと4人中2人がChaosを選び、うまいことバランスが取れてしまったのである。なんだこいつら。かわいそうに心が病んでいるのか。ここはひとつ正義の力を見せてこいつらを更生させてやろうと、割と本気で思ってた。

 一方で、Chaosを選び嬉々としてバルログを操るコブラっち(仮名)。あまつさえ、中立ユニットのスパイダーやスコーピオンも嬉しげに繰り出してくる。中立なのでこっちも召還できるのだが、外見が気持ち悪いので避けていたのに。何この人、正気じゃない。当時そう思ってました。

 ただ実際問題、主力のナイトとバルログを比べると、わずかながらバルログの方が強いバランスだったのと、気持ち悪い「多脚砲団」(コブラっち(仮名)談)は見た目はともかく、コストパフォーマンスは意外に良好だったこともあり、戦況はじわじわと悪化していくのであった。まあ休日に1日遊ぶ程度で、4人のターン制シミュレーションに完全決着がつくわけもなく、夕方に時間切れで解散するのが常ではあったが、いつも劣勢に陥る正義の力に対し、徐々に不信感が芽生える。

 そして極めつけに、敵のスペクターという幽霊ユニットである。幽霊なので普通の攻撃は数%しか当たらない。こいつの攻撃も1%しか命中率がないのだが、この攻撃はひと部隊10体全体に対して適用されるため、実際は1%どころか10%近い命中率がある。そしてユニット同士の相性が激しいこのゲームの中、スペクターだけはどのユニットに対しても1%なのである。つまり、主力のナイトがスペクターに囲まれて、1体2体と削られていく様がなんとも切ない。

 このスペクターを操るときのコブラっち(仮名)がまた実に楽しそうで、悔しさも倍増というものである。やがて数年後、自分のPC98を手に入れて、ファンタジーナイトをじっくりとCOM相手に遊ぶようになった私は、試しにChaos陣営を選択してみて、試しにスペクターを操ってみて、心底楽しいと思ってしまった。ああサタンってこういう風に生まれたのね的な。以後、私の好みは180度変わってしまい、アンデッドや多脚砲団を愛するようになった。


 ちなみに、このゲームにはもうひとつ華がある。言わずとしれたドラゴンである。中立ユニットであるため、どっちの陣営でも召還できるが、序盤はコストがむやみに高い割には主力級ほどの活躍はできない。ただ成長していくと、S-ドラゴンからM-ドラゴン、L-ドラゴンに進化し、10体編成などの雑魚ではなく1体のどでかいユニットになり、画面が点滅するほどのド派手で強烈なファイアーブレスを吐く。

 問題は1日のマルチプレイでそこまで進化できるか。対人で激しい損傷を受けたら進化どころではない。そこで一計案じた私は、悪友の中でもLawを選ぶ常識人のトウジ(仮名)に交渉を持ちかける。毎ターン、経験値のエサとなる雑魚を互いに送り合う相互通商条約を結ばないか、と。夕方までにL-ドラゴン見たいよな、と。目端の利くトウジ(仮名)はこれを快諾してくれ、2人で秘密兵器を育て上げ、夕方にはL-ドラゴンでChaos陣営のクズどもを焼き払うのであった。

 目端の利くトウジ(仮名)とは、今も遭うと資産運用の話で盛り上がる。残りの連中は酒かギャンブルの話ばっか。三つ子の魂とはよく言ったものである。


<人生の変化ポイント>
・ダークサイドへの堕天
・資産運用精神の萌芽

(2015年07月05日)

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