人生を変えたゲームたち

その9(中編) Magic:The Gathering(カード)

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 なんか語ることが多すぎて、2回じゃ終わらないので3回にしよう。


 買い進めたにも関わらず、GMCメンバーは常に私よりも先を行ってた。廃人の集まりである。そもそも流通してない上に、たまに入荷してたとしても、おひとり様いくつまで、と購入制限をかけられていた時期である。金があるとかない以前に、いつどこで買ってんだあんたらは。

 そのうち、私同様にいつまでも購入できないから直輸入しちゃおうぜ、という勢力が現れた。めえめえ(仮名)というお大尽がそれを始め、チャットで購入を依頼して、代金は後払いでいいよ、しかも市販価格よりやや安めで済むという好条件だった。こうしてカード購入の勢いはとどまるところを知らず、10箱分、20箱分と単位がどんどんでかくなるのに時間はかからなかった。

 カードが集まると、その中から厳選されたカードで強いデッキを組むという段階に進む。ちょっとこれはいけるんじゃないか、と井の中の蛙だった我々GMCメンバーは、最初に開催されたホビージャパンの大会イベントに参加する。もちろん結果は惨敗。私に至っては初戦敗退。相手は日本語をしゃべる外人で、Earthquakeという初めて見るレアカードで壊滅させられたことを覚えている。決勝戦は船越氏vs中村氏。優勝したのは船越氏だったが、楽しそうに戦う中村氏(のちのNACである)のプレイスタイルに、私はぼそっと「いいなあ、ああいう人と戦いたいなあ」とつぶやいたらしい。


 この大会を機に、GMC内で切磋琢磨が始まった。それぞれ得意分野に邁進し、私はその中で赤の攻撃力に惹かれ、Goblin Grenadeという1枚で5点もダメージを与えられるカードに魅せられた。Goblinを1枚いけにえに捧げる(というかイラスト的には背中に爆発物を背負ってカミカゼ)という条件はついているが、Goblinなんて1マナで召還できる雑魚キャラ。呼んでは爆発、呼んでは爆発で、4発撃てば初期20ライフを削り切る速攻性が売りだった。

 やがて今度はホビージャパンではなく、前回優勝した船越氏などの有力プレイヤーが自主的に大会を開催するようになる。大会の名はBlack Lotus杯。MTG界で最も高価なカードと言われるBlack Lotusが優勝賞品として進呈されるとのこと。まじかよすげえな、こりゃ出るしか、とGMCメンバー総出で参加。

(ちなみに開催の経緯は開催者のつるた先生によるとこうだったらしい。もう公式には残ってないが、アーカイブから勝手にもってきた)

 Goblinデッキで参加した私の初戦の相手は、あろうことか身内のymzk(仮名)。むこうは白のウィニー(小型生物で速攻を狙う)デッキ。当時最有力だったタイプのデッキなので、もちろん研究済みである。難なく退けて、幸先のいいスタート。

 後半は当然ながら段々と強敵に当たるようになり、特に白でProtection Circle:Redで対赤防御を張られたときは困った。ハッタリとかハッタリとかを駆使してなんとか突破したのは奇跡に近い。そして準決勝は黒の捨て捨て。1枚1枚が強力な兵器であるこのデッキは、密度が高い分捨てられるのは大変困る。ここで初めて1敗したものの、なんとか2勝して強敵を破って、ついに決勝に進出する。相手は、かの中村氏。

 戦ってみたいという夢が、こんな形でかなうとは。相手は黒の捨て捨てに墓場から蘇るグール系が混じっていた。普通に考えるとそんなに強いデッキではなかったと思うが、それでも全勝してくるんだからプレイヤースキルの高さが伺える。そんなトッププレイヤーの胸を、こんな大舞台で借りられるとは光栄の至り。もう満足しきって、完全に無欲の勝負だった。

 しかしそういう無欲のときに限ってうまく回るもので、勝ちに不思議の勝ちありといった風情で2勝1敗でこの決勝を制し、見事優勝して船越氏からBlack Lotusを受け取るに至る。このときがMTG人生の絶頂だった。もちろん今でも家宝として大事にとっといてあるが、正直そろそろ換金しようかなと思わないでもない。かなりメモリアルな大会なので、その価値含め買い取ってくれる奇特な好事家はいないものか。


 その後は、続々と出る拡張セットをせっせと買い集めることに。日本語版が出るようになったり、世界中で大流行して流通量が大幅に増えたこともあり、一度に買う量も爆発的に増えた。ひと箱1350円だった気がするので、10箱でもう1万円超。新しい拡張が出ると発売日に代々木に行って、スターター単位ではなく、スターターが詰まった大箱(通称レンガ)単位で買うもんだから、一度に7-8万円は吹っ飛んだ。一体総額でいくら使ったのか、知るのが怖いので試算もしたくない。多分数百万円、ひょっとすると大台に…いやいや知りとうない。

 日本語版が出た辺りから、インターネットの普及もあってカードリストが出回り、デッキ情報が出回り、プレイヤーの質は急速に高くなっていった。もうぽっと出のゲーマーが勝てるほど甘い世界ではなくなり、また一度使ったデッキには興味がなくなったのもあり、その後シリーズで開催されたMox杯(これまた高価なカード)にも参加はしたものの、全く箸にも棒にもかからないデッキを持ち込み、打って変わって全敗を争うテーブルに座ると、主催の船越氏から「そういう場所に居られると大会の質を疑われるんですよ」とお小言をいただいたことも。


 このMox杯シリーズでは今度はムラカミ(仮名)が優勝し、ひょっとしてGMCは強豪サークルなんじゃないかと言われたこともあったが、あれも不思議な勝ちだった。この頃から優勝者はデッキを開陳して勝利インタビューに答えるのだが、会場の皆がなんであれで勝てるんだ?という顔をしていた。もちろん我々GMCメンバーだって不思議でしょうがない。手をぷるぷると振ると欲しいカードが引けるというムラカミ(仮名)の持つ特殊能力のおかげだろう。彼はその能力でうさ子(仮名)さんという素敵な奥さんまで引いたんだから、大したものである。

 他のMox杯シリーズを制した、当時独協高校の学生だった石田氏と伊吹氏。こっちは本物の強豪だった。そういや先日石田氏が亡くなってしまったのはショックだった。この場を借りて冥福をお祈りします。湿っぽくなったところで中編終わり。

(2015年07月21日)

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